エドワード親書 2009年5月号 |
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前置きはさておき、この特別な一年の締めくくりとして、当会が百五十回位公演してきた「魔笛」を東京で公演しました。しかも3回公演で、私は多くの非難を覚悟で、一回目は指揮、二回目はパパゲーノ、三回目はザラストロ、ととんでもないことをさせていただきました。今のところ、音楽界からの非難の声は届い ていませんが、すべて甘んじて受け止める覚悟です。今回つき合って下さった皆様、私はこの3回、どれだけ出来ましたか?ボブ・ディランではありませんが、答は「風に吹かれて」でしょうかーーー。 今回は自分の反省から入りましょう。 指揮については、まあ僕の感じている音楽を少しは表現できたかな、と思っていますが、歌手を完全に思うとおりに導けたわけではありませんので、それは力不足ということでお許しを。オケも頑張っていただきましたが、技術や細かい練習を誰か本当に訓練してくれると助かります。そして僕の感じているこの素晴らしいモ ーツアルトの音楽、みんなとも、お客様とも、もっと心から楽しめるよう指揮で導けたらと願っています。 パパゲーノは僕の人格そのものですから、これが最後と思いながら精一杯楽しんで歌い演じました。タミーノが理想の若者なら、パパゲーノは自然児でしょう。「どのような人間もそれなりに楽しく生きて行ける、そんな世界を作りたかったのだ。」とザラストロが言います。これは原作にはない内容ですが、モーツアルト君 もそう願っていたに違いないと思って私が勝手に作りました。でも、皆さんどちらかというとパパゲーノが好きでしょ?でも、試練を乗り越えてザラストロの後を継ぐタミーノ王子様も褒め称えましょうね。 最後にザラストロを歌う時は困ったことが起こりました。歌う直前に急激に眠気が迫ってきて、焦り、何とかしようと体に鞭打ち、何とか僕らしくザラストロを歌いきろうと全力を集中しました。しかし、いつもと違う歌詞が思い浮かんでしまったり、声帯が合わなくなるのでは、という恐怖と闘いながらの舞台でもありまし た。自業自得の苦労ですが、お客様がどこまで気付かれていたかーーーー? 台本作家、演出家としては、さすがに密かに自信を持っていますが、呼ばれたお客様の反応は如何でしたか?サルにはビックリしていたことでしょう。 私のことはこれくらいにして、まず1回目公演。 タミーノはいつもの小澤慎吾くん。本番としては、今回が今までで一番良かったのではないかな?そう言えば、歌っているときの顔の表情が、少し自然になってきましたね。 輝く美声は、いつもながらさすがなものでした。 パパゲーノに大抜擢した成田卓也君。柔らかい響きを持ったバリトンで、今後が楽しみな若者です。音楽を充分深めて捕らえるにはまだまだ時間がかかるでしょうが、きっとまっすぐ成長してくれることと信じています。お客様とも呼吸しあいながらの演技がいつか出来るよう頑張って下さい。 ザラストロは、長野から肥田雅宏さんに来ていただきました。音大出でもなく、JRの運転手さんなのですが、本当に素晴らしい声で、みんなを魅了してくれました。演技も少しずつ成長して、幅広い演技が出来るようなりそうで、楽しみにしています。 パミーナは吉川みちるさん。発声では苦労して、いろいろアドバイスしましたね。少し呼吸を鍛え直して、掴み掛けましたから、これからはもっと良くなってくれることと期待しています。体がぶれることも直ってきましたが、これからも、自分の世界に入り込んで歌う、ことから脱皮してくれるようアドバイスしてゆきたい と願っています。 夜の女王は鍬野尚美さん。この役についてはもう超ベテランですが、久しぶりでもありました。これだけ安定して女王を歌える人は、日本でもそういないでしょう。 パパゲーナの吉川れいこさん。どんどん研究し、どんどん良くなってくるのが、つぶさに分かり楽しみでした。誰しも、やはり努力、ですね。 モノスタトスは、野村忠文さんに代わって3回とも秋山大樹君。もう絶好調だったね。当会のファミリーな雰囲気ともすぐ馴染んでくれ、人気を集めていました。発声も、どんどん良くなってきて、これからも楽しみでなりません。指揮も勉強してるようですから、これからどんな成長のしかたをするか、みなさんと見守りま しょう。 野村さんは「元気になるためにーーー」と頑張られたのですが、本当に残念でした。ユニバーサルデザインの考え方からも、何とか引っぱろうと私も努力を重ねたのですが、私の力不足もあり、お客様や共演者のため、出演を断念していただくことに同意しました。野村さん、初心に還って、やれることからやってゆきましょ う。 さてダーメ。 1は長野から齋藤久美。上田公演で、良くなってきたので、東京でも、と思って呼びました。東京でも臆することなく、楽しい仲間と歌い演じてくれて嬉しいです。 2は小松代明菜。立派な声を持っているので、これからも期待していたのですが、岩手に戻るのかな?これからも是非歌い続けて、大成して下さいね。 3は亀田増美。2度目だし、この声域は得意なところで、大体無難に歌っていました。ところどころポカをするのは、いつものことですが、まあ、忙しいマネージャーをしてるのだろうし、そんな中、よく頑張ってくれました。 僧侶は、オペラプラザ長崎から廣田修さんに来ていただきました。僧侶の動きの指導の他、舞台作りなどを含め、大いに活躍していただきました。声もどんどん通るようになってきたので、さらなる精進を期待しています。 もう一人は、若い細川慶郎君。いつもながら、不器用であっても誠実な人柄がいつかいい方向に行くことを願っています。回りの声を聞くことも大切で分かるけど、この次はモノスタトスにチャレンジしたらどうだい?僕もチャレンジで細川君を鍛えてみたいです。僕も大変だと思うけどね。 ハイジマンは、いつも一所懸命でいいのだけれど、理屈で考えすぎるきらいがあるので、もう少し自由になってくれたらと願っています。歌には苦手意識があるだろうけど、真剣にやり直したらどうだい? サル3匹。 見ざるの谷野のどかは声が良く通ってよかったけど、活舌をしっかり出来たらもっといいね。 言わざるは田村裕。とても面白いのだけど、やはり言葉がもっと明確にならないとね。 辻村一平の聞かざるもすっとぼけて面白かったけど、やはり今一剥けきれなかったかなーーーー。 誰かいい演出助手に、このサルどもを徹底的に教えさせたかったかなーーーー。 B組。 タミーノは長野から清住真達さん。上田でもタミーノをよくやってくれたので、東京に呼びました。忙しいのにゴメンナサイ。でも、今回かなりいい感じで歌えていましたね。おめでとうございます。 パミーナも長野から大畑裕江さんを呼びました。何といっても安定した歌唱力はなかなかのものです。声もあるので、パパゲーノとのアンサンブルも、彼女なら僕も気兼ねなく声を出せ、のびのび歌わせてもらえました。お姫様はもう卒業され、大人の役でこれからもよろしくお願いします。 女王はオペラプラザ長崎から石多加代子に来てもらいました。本番前の色々な雑用の重労働の中、いつもながらさりげなく安定感を持って歌ってくれました。 パパゲーナは名越桃子。本当に僕のイメージにピッタリ。歌も独身時代より伸びてきて楽しみでなりませんでした。息子さんと僕とのライバル関係はいつまで続くか分かりませんが、ライバルによろしくね。 ダーメ1は柏崎伸子。一度裏切られたことがあるので、こいつめ、と思っていましたが、帰ってきてくれて本当に嬉しいです。声も演技もいいので、これからも大いに活躍してほしいものです。娘の有紗とともにーーー。一緒に連れてきた可愛い女の子達も、これからも一緒にやろう、とお伝え下さい。まだ遠慮が残っていた のが、本番の頃やっと本性が現れだして、これから楽しみです。水野聡美、東條あかね、今瀬ひなの、小島久瑠実、みんな元気でまた会おうね。オケの運営委員長=あねご武田の可愛いお嬢さん陽子ちゃん、お母さんに似て可愛かったね?!ヴィオラの稲垣夫妻と、くらら、然、の子どもたち。打上でも話しましたが、まさに素晴ら しい親子共演でした。余談が続きますが、だんだんオケと歌手との交流が深まってきそうで、大いに楽しみです。 さて、2は、我らがモッチャン。間違ったときの誤魔化し方ももう、堂に入ったものでお客様を楽しませる集中力などは天下一品のものですね。呆れて何も言えないくらいです。歌唱技術も怠らず訓練してるようで、本当に100年来の親友として嬉しく思っています。 3の田村さんは、本当にお疲れ様でした。もう少し楽な状態で歌わせてあげたらと願っています。役割分担を明確に、負担はみんなで広く薄く、そして楽しくやってゆきましょう。でも、演技はともかく、声は大丈夫でした、体力はしっかりお持ちなのかな?演技は、一般のお客様にとって、田村さんが感じている以上に大切 です。これからも精進しましょう。 クナーベ1は清水円さん。当会初出演ですが、頑張ってよくやってくれていました。発声ももう一皮剥ければと思っていましたが、まずまずでしたね。 内声で難しかっただろう2の豊田さんも、だんだんみんなと慣れてきて、うまく解け合ったアンサンブルにしていってくれました。 3の加瀬さんは無理矢理お願いして出てもらったのですが、彼女がマイペースでありながらも3人でまとまった響きになってきたときは、本当に良かった、と心の中でつぶやいていました。ご心配もかけたかと思いますが、せっかく掴みかけた発声をこれからも磨いて頑張って下さい。 もう一つのサル三匹。 牧羽祐子が出られなくなったので、谷野ひかりが急遽、聞かざるに。当初はためらいが見えたり、つい、ふてくされた表情を出していましたが、だんだんその気になってきたのか、いい感じで演技が出来るようになっていました。嬉しいです。クナーベでも活躍してくれました。 谷野しずかは言わざる。話し声も通り、演技が程良く、お客様にも好感を持って迎えられたのでは、と見ていました。やはりクナーベでも難しい2を割にしっかり歌っていましたね。 田村はるかは見ざる。もう少し活舌を良くし、楽しんでほしかったのですが、今一乗り切れていないのが残念でした。年頃?かな? 最後のC組。 パミーナの本田江里。ヴィヴラートがかかりすぎなので、発声を直しかけましたが、もう少し、だったね。演技は、まあちょっと庶民的でお茶目なお姫様で、好感も持てました。いつか徹底的に鍛え上げたいです。 そして、パパゲーノには青山弘昭君。当会の創立時からのお付き合いですが、今までで一番よかったね。少し癖のある声もポルタメントも押さえられ、演技も嫌みが余りなくなり、とても嬉しかったです。練習中に一言多かったのも、余りの熱心さのためと、赦してあげて下さい。演技指導の助手もさせたかったほどなのです からーーー。 ついでパパゲーナの青山由美さん。パパゲーノと老婆のやり取りのシーンは余りに面白くて、ビックリするほどでした。僕の思っているイメージからは少し飛び出してしまいましたが、これも僕の演出の許容範囲でしたので、思い切ってやってもらいました。恐らくご夫婦で必死の練習をしたことでしょう、皆さんも是非見習 って下さい。青山夫妻独自の良さを活かす、というユニバーサルデザインの考え方でも、よかったと思っています。 それに、安郷香ちゃんも、障害を持った友人達も参加してくれて良かったです。これからも一緒にやってゆきましょう。西山親子も参加してくださってよかった。これからも一緒に頑張りましょう。 ついでながら、西山百代さんは、相変わらず賑やかでしたが、今回は少し安心して見ていられました。これからもテノリーネンとして、精進、精進ですね。 齋藤茂暢さんにも、久しぶりにお願いして出ていただきました。元東京オペラ協会合唱団の団長を務めていただいていた方です。これからもどうぞお元気で。 女王は柳井友梨香。上のFは充分届くので、安定して歌えるようアドバイスしました。先輩の桑野尚美さんや石多加代子のアドバイスも生きましたか?演技もぎこちないのですが、言えば、割にすぐやれるので、これからはもっと徹底して教え込もうと思っています。 1ダーメは紅典江さん。ソリストとしては当会初出演ですが、演技も頑張って、なかなかしっかりした声で歌ってくれました。気の強いところが、もっと面白く活かされるよう導きたいですね。 2は天利友喜枝。2に廻ってもらって内声は大変だったと思いますが、いい勉強にもなったのではないかな?ひとつ脱皮できるいいチャンスになってくれたら嬉しいです。 クナーベ3で頑張ってくれた、青山みそのさん。いつもながらメイクも手伝ってくれ有り難う!今回、僕のパパゲーノの顔も実は彼女が作ったのです。面白く可愛い顔にしてくれと頼みましたが、どうでしたか?癖がなく素直な声も好感が持てます。 岡山から西谷さんが貴重な男声として歌いに来てくれました。そして、杉山裕美が東京の音大の新一年生として入学したので、岡山同様、再びクナーベ1と、2も部分的に歌ってもらいました。東京のみんなも、彼女を可愛がってくれて有り難うございました。 さて、今回ザラストロを肥田さんに全回というわけにもいかず、その上オケから僕のパパゲーノへの熱いラブコールに馬鹿だからついほだされて、ザラストロに加えてパパゲーノも歌うことにしてしまったため、副指揮の田中亮さんに18日は2回とも指揮をしてもらいました。オペラの指揮の難しさや面白さを、今回充分に 汲み取ってくれたことと思います。特に、僕の目指しているオペラのあり方にも深く共鳴してくれて嬉しいです。 舞台監督には奥村啓吾くんにお願いしました。彼は若いオペラグループを立ち上げて頑張っている演出家でもあります。僕が東京オペラ協会の旗揚げに加わったのも29の時、出来るだけの応援をしてあげたいと思います。舞台監督としてもよくやってくれました。 練習ピアノから本番はチェレスタを弾いてもらった、齋藤里香ちゃん。もう長く一緒にやってくれていますので、僕との呼吸もだいぶ合ってきたし、作りたい音楽を分かってきてくれて、助かることも多くなりました。有り難うね。 オリンピックセンターのスタッフにもこの場を借りて感謝申し上げます。会館とのお付き合いはとても大切なもので、彼等のやる気がなければ、とてもこんなに協力してもらえるものではありません。僕はどんなに多くの皆さんに支えていただいていることでしょう。みなさんに再び深謝。 印刷にしても、管理人さんにチラシやポスターのデザインをお願いでき、感謝していますし、パンフレットは谷野有紀の担当でしたが、当会の新しいコピー機で印刷しました。こうして制作は、野崎真琴を中心に、谷野有紀、田村多佳子、辻村久美子が担当してくれました。みんな愚痴も一切言わず、本当に大変だったろう と思います。 長崎からも石多加代子や坂田直子、川口優子、そして廣田修などが出演だけではなく、スタッフとして側面から協力してくれたこともよかったのでしょう。 何しろ、オペラ制作は、その気になれば無限に仕事があるものです。大変だと思えば大変だし、面白いなと思えばそれは本当に無限に面白いものです。まあ、考え方、受け止め方ひとつ、ですね。 超我が儘な監督の元にここまでついてくる方々が各地でも出てきたのは、監督が作るオペラが少しは面白いからに違いありません。きっとそうでしょう。多分そうなんじゃないかなーーー。いえ、まあ、そうじゃなかったとしても、監督の我が儘が皆にばれないようにさえすれば!と思うようにしています。違ったら、ゴメン ナサイ。 もう一度、この一年を振り返ります。 私の目指すことが、日本の人々に受け入れられるかどうか、それがすべてだったように思います。内心は、受け入れられても、受け入れられなくてもいい、僕はこのまま突っ走るだけだ、と思っていましたが、やはり各地に広がって受け入れられてくると嬉しいものです。私のやり方は他に類がないので誤解を受けることも多 々ありますが、それは当たり前のこと、と甘んじています。 私が目指すものは何度もどこかで申し上げているとおり、誰もが参加でき、誰もの可能性を拓き、いろんな方々と楽しく共演し、あらゆるお客様に楽しんでいただけるよう精一杯の工夫を積み重ねて行くことです。私たち人間に出来ることは限られています、だからこそ精一杯、出来るだけのことをやり続けましょう。 もちろん、この私や、東京オペラ協会のためにではありません。ましてや日本の音楽界のためではありません。当会や音楽界がどうなろうと、日本や世界が元気になればそれでいいのではないですか。 歌は無限の広がりがあっていいですね。それも総合芸術であるオペラは何と魅力的なものでしょう。だから私は燃えてきたのだと思います。これを読まれた皆さんも、あまり難しく考えず、気軽にそして身軽になってオペラを楽しもうではありませんか。 二度とない素敵な貴方の人生を!こうして過ぎてゆく一瞬一瞬を抱きしめながらーーー。 僕もこれからは少し大人しくしようかと思っています。一応、ですがーーーー。 みなさん、どうぞお元気で! |
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