エドワード親書 2009年11月号
10月11,12日 カトリック高円寺教会
オペラ「忘れられた少年」公演に寄せて

自分の作ったオリジナル作品を他人に演奏してもらうのは、照れるものですが、今回の公演では、自分もだんだん仙人らしくなってゆこうと、一人の歌い手に徹してみました。
つい口を出したくなってしまうのは当然でしょうが、それをぐっと我慢するのも、新しい自分への挑戦で面白くもありました。

それにしても、若い力でみんなを引っ張った二人には心からエールを送ります。もちろん、指揮の大野桂一郎さんと遊達人です。二人とも私の期待に、見事応えてくれました。大野さんも初めてのオペラをよく研究してくださり、あの会場では振りづらかったと思いますがいつもどおり皆をよく引っ張ってくれました。ま た、私の基本の演出プランは変わりませんが、遊には演技や動きの全てを託してみました。少し厳しい使用制限がある高円寺教会の中で、遊も精一杯の動きのアレンジをやってくれたように思います。
一方制作である野崎のお手伝いに回った大地は、オケの運営委員長の武田さんと兄弟げんかのようなことをしているように見えていましたが、当のご本人たちは大変だったかな。野崎にも子連れでいいから、と話して制作を頼みましたが、彼女も思ったより体が(頭も?かな)自由にならず大変だったでしょう。ユニバー サルデザインをどう追求するか、課題をまた見つけたように思います。しかし皆さん、そもそも混乱の原因は、自分にその力もないのに何でも誰でも受け入れてしまう私のいい加減さですから、すべて許してください。
皆さん、私に付き合うと大変ですよーーーー、お覚悟を!あまり近づかない方が賢明かも知れません。

さて気の向くまま振り返ります。

オケの演奏については、最終的にはいつもの通り、上手く行くのですが、もう少し早く出来上がっていたらーーー、と皆さんも思うでしょ?仕方ないことなのかな?でもこれも、僕が演奏者集めに力を出せなかったことが関係しているので、申し訳ないとしか言えません。結果は、みんなよく演奏してくれました。
それに、オケのみんなが、これはいいオペラだと気づいてくれていってる様子を分かっていました。嬉しい。それだけです。また、このオペラで観客の皆様が泣いてしまわれるのは、よくあることなのですが、オケメンバーが泣いたのはあまり記憶にありません。ましてフルートとオーボエの二人がデユエットされたとは 、――――――。でも、音楽や台本の内容を、深く感じ取ってくださった結果でしょうし、何歳になってもきっとそのまま純粋な気持、素敵ですねーーー。
何しろ、これは僕の処女作でもありますし、思い出の深い作品で、言葉には出来ないいろんなことを思い出しますーーーーーーーー。
ある人は、この台本は本当にエドワードが書いたのか?と不思議がられます。よほど私を馬鹿か変人だと思っていらっしゃるのでしょう。当然です、僕もそう思っています。多分私が書いたのではなく、誰かが私に書かせたのでしょう。

それはともかく、このオペラに使われている中に、3曲ほど私の曲が入っていたことをご存知でしたか?伊東マンショのアリアは完全に私の曲です。柴田先生がお作りになる予定だったのですが、亡くなられてしまわれたので私が代わりに作曲したのです。あとの2曲は私のメロディーを使って柴田先生が編曲されたので すが、どれかは当てて下さい。

さて、歌手の皆さん。
このオペラ、本当にどう感じましたか?

ときゆく者の石多加代子。もう、この役を何度演じたでしょう?段々余裕も出来、セリフも深い共感からの言葉になってきたように思います。最後の「長い旅を終え」はじっくり聴かせてくれました。もう一人の紅さん。なかなか覚えきれず、この役に案外苦戦していましたが、本番に向けこの役のすばらしさと重みを徐 々に実感してきたようです。自分ではどう感じていましたか?

11日の少年役の清水円、豊田結実子、細川慶郎、笠井大彰。なかなか4人が揃わず苦労したそうですが、もともと歌唱力がある程度ある人たちなので結果的には、まずまずのアンサンブルになりましたね。しかし、まずまずで満足するみんなではないだろうから、敢えてお願いします。少年使節の若い頃の一人ずつの気 持ちを深め、もっともっと歌と演技で表現しましょう。芸術の道は当然ながら無限だからねーーー。清水さん、トップのソプラノとしてアンサンブルを引っ張る立場で頑張ってもらいましたが、4人で充分楽しめましたか?豊田さん、真剣な歌と演技、よかったよ。細川君、終盤良くなってきて本当によかった。笠井君、音程など不安 なこともいっぱいあっただろうけど、終わった今となってはどんな気持ちですか?君の純粋さが好きです、これからもずっと見守ってるよ。

12日の少年4人。杉山裕美、澄里はち、佐野友美、山田智子。少年使節の実年齢に近い若者達でした。まっすぐ、気持ちよくこの役に向かってくれました。直接の指導はほとんどしませんでしたが、遊のアドバイスなどを頑張って吸収していたように思います。
杉山は、発声で少し悩んでいたところもあったでしょうが、結果的にはよく声も通り、アンサンブルでもみんなをよく引っ張り、成長を感じました。このまま成長してゆけるよう、抜いて歌う感覚を今すぐ身につけてね。澄里ミゲルの真剣な演技はよかったです。声がよく伸びる歌唱力を身につけたいね。佐野も声が良く 通るようになってよかったし、山田も低い声域までよく出て頑張っていました。
この4人、みんな若者らしい元気な演技、とても気持ちよかったよ。あとは、発声を鍛えることに真剣になって下さい。

青年マンショの馬場君。久しぶりの登場でしたね。とても懐かしかったです。声も相変わらずいいし、演技にも少し余裕が出てきたのを感じていました。
遊達人も、前回より一回り大きくなったマンショでした。発声も少し自信を取り戻してきたようで、もう少しですね。
青年マルチノは笹岡みどりさん。今まで、色々な役で出演してもらいましたが、今回のマルチノ、とてもしっくりしていました。真剣な歌と演技もよかったし、ジュリアンとの二重唱も共演していて気持ちがピッタリ来ていました。
もう一人の西正子さん。オペラ「ザビエル」以来ですが、僕のアドバイスにすぐ応えてくれたところはさすがでした。いろいろ恵まれていらっしゃるので、今後も大活躍を期待しています。
青年ミゲル。二人とも大変だったことでしょう。
まず、青山由美さん。発声では苦労されたと思いますが、だんだん安定してきたし、何と言っても、ミゲルをよく深めてくれました。青い火花を散らしながら、ジュリアンも燃えました。
もう一人の田村多佳子さん。なかなか暗譜できず大変だったですね。子育てとの両立の難しさ、察します。僕も出来るだけ、はるかや裕の手助けをしたかったのですが、今回もあまり力になれませんでした。しかし、本番直前にはかなりのミゲルになれ、歌もさすがに安定した力が発揮できよかったです。
私のジュリアンは、相変わらずの綱渡りで、皆さんをはらはらさせてしまっていたでしょうか?風邪は直っていたのですが、気管支がもともと弱いのか空咳が止まらず、本番で咳き込まないことにかなりの神経を使いました。早くいいジュリアンを見つけなくては、と思います。皆さんご協力を!そして早く僕を追い出し てください。
来年5月末にある「忘れられた少年」の松山公演では、指揮にまわります。みんなも参加出来るといいですね。特に可愛いオケのみんな、来ないかな?僕の指揮で、もう一度演奏してもらいたいなあーーー。
ジュリアンは、何とか別のベテラン歌手に頼みました。彼にも期待しています。

ベルナルドの橋本さん、演技もですが、期待以上にしっかり歌って下さいました。フィリピンのことでもご支援くださっており、これからもよろしくお願いします。もう一人の秋葉由紀は、少年役で欧州公演にも参加した若者、富山からよく頑張って来たね。演技も歌も、真摯でよかったよ。
おんなの谷野有紀と辻村久美子。二人ともまずまずでしたが、辻村は、年を重ねて少し歌唱力が安定してきましたね。嬉しいことです。
秀吉の結城孝一さん。今までもこの大役を猿っぽい解釈で乗り切ってきました。これからも、健康に留意され頑張って下さい。
大名の内村さんは、いつも見事なお声で今やもう当会のベテランのようですが、盲目であることが分からないほど自然に演技され、今後も大いに楽しみにしています。
ヴァリニャーノの武村さんは、当会初出演。しかし、すぐにみんなと馴染んでくださりましたね。さすが立派なお声で、安心していられました。もともとのキャラクターはフィガロのコンテかもしれませんが、これからはこういう役も究めて下さい。来年度の欧州公演ではお世話になるかも知れません、どうぞよろしく。
町の上は亀田さんと佐藤さん。亀田さんは柔らかい声で、声の伸びが少し心配でしたが本番はどうだったでしょう?佐藤さんは、歌も演技もひとまわり成長されたのを感じました。
ザビエル役の西道さんは、初め少し気迫不足を感じましたが、だんだん気合のこもったザビエルになってきてくださり嬉しかったです。
ハイジマンのヤジローは期待通りでした。
そういえば、エドワードはローマ法皇も演じていました。やってみて、祝福するだけでも、こんなに演技力がいるのだと、今更ながら改めて感じました。面白いものですね。
合唱はソリストも参加されていたかと思いますが、このオペラは合唱しながらソロも歌うのがイイデスネ。本番に向け、だんだん、いい合唱になってきました。今回、私は合唱を歌えずちょっと寂しかったです。
大砲のように一方通行で話しまくることで知られる西山さんは相変わらずでしたが、その情熱というかファイトにはいつも敬服しています。エドワードが教えてくれないかいけないんだと仰いますが、指導者は他にもどんどん出てきます。大切なのは無心で初心で練習に向かうことです。これからも頑張って下さい。
徳久さんも随分みんなと仲良くなられ、頑張っていらっしゃいました。
坂田さんと川口さんは、オペラプラザ長崎を代表して参加。二人とも、この作品にはいつも出てくださっているので、参加してくださって安心でき、嬉しかったです。衣装のお世話をしてくれた坂田さんも、あまり五月蝿がられず、みんなとうまくやってくださったように思います。
そして、圧巻は上五島からの相良君。彼はこのオペラの初演の頃、口之津町での公演を見、いつの日にかと思っていたら上五島に転勤になっていたとき上五島公演が。青年マンショに抜擢しましたが、今回の練習で突然歌ってもらってみんなもお分かりかと思いますが、本当によく頑張ってくれました。今回は合唱での参 加ですが、何か感じ取って上五島に帰られたようです。大切な仲間になってくれたように思います。12月6日の長崎江迎での公演にも上五島軍団を引き連れてやってきてくれるでしょう。
児童合唱も、いつものみんなが参加していましたが、可能なら大人の合唱にも練習から参加できればよかったねーーー。


さて、このままでは余りの手抜きに感じるので、雑談を。

まず、歌手の皆さんに。

皆さんの多くは、今まで厳しい訓練を受け、当会以外でも多くの舞台を踏まれてきたかと思います。歌うことって、皆さんにとっては当たり前でしょうが、「誰のために私は歌うのだろう?」と考えられたことはありますか?

恐らくは自分自身のためでもあるし、お客様のために歌うのですよね?
しかし、自分、といっても自分の名誉欲の為?お金儲け?自己満足?自己向上のため?などいろいろ考えられますねーーー。
お客様のために歌う、といってもお客様もいろいろ。どんなお客様を喜ばせたいですか?
歌仲間?弟子たち?まさか評論家?友人たち?ご家族?子供たち?何かに病んでいる人?生きる希望を渇望している人?やはり、いろんなお客さまが考えられます。
一度、何のために舞台に立ち歌うのか、じっくり考え直してみませんか?
自分の歌を聞いて頂きたいのは誰なのか?自分は何故歌うのか?どんな歌を歌えばいいのか?初心にかえって問い直すのも必要な気がします。
何か閃いたら、教えて下さい。

続いてオケの皆さんに。

皆さんは誇り高いアマチュア演奏家、でしたね。プロでいるよりアマチュアでいる方がいい、と僕もよく思います。アマチュアでいる方が、五月蝿い評論家も怖くないし、自分の音楽を自由に追求できるからです。今回はその指揮者の音楽に浸ってみよう、次は違った指揮者の元で演奏してみよう、そして終演後自由闊達 に感想を述べ合うのもいいし、自分達の音楽観をぶつけ合うのも楽しいでしょう。アマチュアの中にはプロ顔負けの識者がよくいます。そして、自分の博識ぶりや音楽観を声高に話す可愛い評論家が生まれたりします。みんな、それでいいでしょう。アマチュアは自由でいいのです。
音楽はもちろんのこと芸術には絶対こうだ、ということはありません。しかし指揮者がその音楽をどこまで深く読み取れているか、演奏者がそれをどこまで汲み取れるか、はあるでしょう。そのためには、日頃の練習は大切ですね。いくらすごい音楽を感じ取っても、表現できなければ伝わらないですからね。
最後に歌手にもオケにも共通して申し上げたいのは、最後は人格だってことです。それは怖いほど伝わります。では、どうやって人格を磨けば言い?それは自分で考えましょう。

愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ、とあるドイツ人の言葉を引用しました。
含蓄の深い言葉ですが、少年使節のことを歴史のひとこまとして教科書で習うように学ぶのではなく、彼等の人生を出来るだけ深く実感できることが大切だと思います。歴史をしっかり実感できるよう甦らせる、そのために芸術は役立たなくては、と思うくらいです。
(そっと内緒で言います。僕はもちろん賢者ではなく超愚者ですが、自然から学んでいます。)

そういえば、ユニバーサルデザインでどんな考え方も受け入れようとすると、かえって収拾がつかず、みんなを混乱させてしまうことがありました。それほど、ユニバーサルデザインで何か事業をすることは難しいことなのかも知れません。力もないのに、それをやってゆこうとする私は、周りに迷惑を掛けることにもな りました。反省しきりですが、自分が好きで選んだ道ですし、このまま歩んでゆきたいのです。関わってくださる良識ある皆様、どうぞそのことをご理解の上、お付き合い下さい。
歌手の皆さん、東京オペラ協会管弦楽団のいとおしい仲間達、これからもこんな私に耐えられる間だけ、しばしご同行をーーーー。


次の公演は12月23日の東京でのクリスマスコンサート。面白いものにしたいです。
各地の皆さん、秋が急激に深まってきました。どうぞ、お元気でお過ごし下さい。


   2009年11月1日

  石多エドワード