11月28日(日)に長崎市の浦上天主堂の傍にある、長崎カトリックセンターにて国内で99回目になる公演をしました。会場の響きが悪いことを案じていましたが、最終的にはみんなの、歌い上げようという気迫も高まり、音楽的にも充分聞き応えのある公演になり、嬉しかったです。舞台装置も簡略化せざるを得なかったのですが、それでも2トン車に収まりきらない量の大道具や衣装を運んで、最大の効果を上げようと男性陣中心に頑張ってくれました。
今回の出演メンバーは、オペラプラザ長崎のみんなはもちろんのこと、東京からエレクトーン伴奏の野崎真琴と町の上を歌う亀田増美、愛媛からはオペラプラザ愛媛の事務局長を務めている秦美智世、鹿児島からは急遽ヤジローをお願いした兼元俊一、上五島からは上五島の福山雅治こと相良伸介と、同じく上五島の水前寺清子こと森絹代、福江からは今回は大名役で浦上寿と、久しぶりに寺村れいか。このオペラの最初からの参加者である佐世保市の永江義一が、急遽古川敦生のピンチヒッターで秀吉を。地元長崎市からは以前スタッフが大変お世話になった田川照子がスペインの老婆役で大活躍のほか、野浜ご夫妻など懐かしい出演者が数名出演され、久しぶりの交流をみんなで楽しむことが出来、とても良かったですね。
カトリック長崎教区事務局長であられる旧知の小瀬良神父には、この当日朝に教皇役をお願いしてしまいました。
こんな仲間と27日の練習から28日当日朝のゲネプロ本番、 実に様々なドラマが展開されました。楽しみというか、ドキド キさせるというか、不安にさせられたというか、笑い転げるこ
ともありーーーー。まあ、当会の舞台ではいつものことでしょ うね?それでも和気藹々とした中に適度な緊張感が漲って、あ れだけ気合いの入った舞台を作れたことは、みんなも人間的に
少しずつ成長してきているのかな、とも暖かい気持ちで眺めさ せていただいておりました。生意気でごめんなさい。
時ゆく者の石多加代子はあの響かない会場で、見事に声を聞か せた上、台詞もいつも以上に説得力に溢れていたように思いま した。エレクトーン伴奏とのちょっとしたハプニングもありま
したが、還暦を目前にした今、此処まで成長してきたことに不 思議な感動を覚えます。やはり、日々精進、でしょうか。
少年マルチノの井村奈保子は体力や気力の不安を乗り越え、本 番では皆を歌でよく引っぱり頑張りました。これからは心身を 労りながらも鍛え上げて、さらに素敵な優しい大人に成長して
いってくれることを願っています。
これは余談ですが、現代人は体力や精神力が弱ってしまってい る人が多くなったように見受けられます。日本の社会全体に広 がる現象です。それをまた、一つの現代的なかっこいいスタイ
ル、と見なしてきた風潮もあるので、考えるところです。40 年前も、太宰治に象徴されるデカダンスが、かっこいいスタイ ルにされていたことを思い出します。でも皆さん、脆弱化して
ゆく世相の中で健康で精神的にしっかりしようと密かに努力し 続けることは、どんなに素晴らしいことか、と思いませんか? 少年ミゲルには小島和子。初参加でしたので不安な事も多かっ
たと思いますが、ヴェテラン?でありながら、若者にしか見え なかったのは僕だけでしょうか?恐らく、大変なプレッシャー の中、精一杯頑張ってくれたのでしょう、それが伝わってきて
いました。
少年マンショは廣田結希。ゲネプロ直前に響きを眼前で捕まえ られたようで、声が安定して嬉しかったです。
少年ジュリアンは中村弥由貴。チェンジを含め発声が随分安定 してきたし、演技も良くやっていました。これからの更なる成 長を期待しています。上の声が伸びてきそうですね。
大人のマルチノはオペラプラザ長崎代表の廣田修。今や舞台の
ことを一番分かっている最重要スタッフとして活躍してもらっ
ていますが、いつもながら歌も演技も毎回よく精進しているこ
とを感じます。今回も一皮また剥けたように思いました。背中
に息をしっかり入れられるようにすれば、更に良くなります。
これからもみんなのいい目標となって頑張って下さい。
マンショには相良伸介。前日の練習で、以前より声が少し不安
定になってきたのを感じていましたが、持ち前の気合いを信じ
てチャレンジしてもらいました。また精進し直していただき、
この次は更に気迫溢れるマンショを期待しています。8月のア
ントニオビールと今回のマンショの落差に戸惑いもあったのか
な?でも、流石にお人柄、本番ではみんなから愛されるマンシ
ョになってくれていました。
ミゲルの山口陽子は、本当に死にものぐるいでこの役に挑戦し
たことでしょう。4人の主役の中で、日本人の80%はミゲル
に共感します。それだけ責任の重い役であることを、彼女も感
じ取っていたことでしょう。声も良く伸び、全力投球してくる
山口ミゲルに共感されたお客様も多かったのではないでしょう
か?よく頑張りました。この次は更なる深いミゲルを舞台で生
きましょう。
ところで、精一杯の演技はいつも気持ちのいいものですが、考
えたら誰だってみんな、精一杯やっているのですね。誰もが精
いっぱいやっていることを信じて、互いに思いやりの心を持ち
あいましょう。それがユニバーサルデザインです。人によって
与えられた条件、環境は変わります。その中でそれぞれが精一
杯やってゆく姿は人間賛歌に繋がります。このオペラのテーマ
でもあります。
さて今回も私がジュリアンを。いつかパンフレットにも書きま したが、何度やっても新鮮というか、限りなく深い奥行きをこ のジュリアンに感じてしまいます。その度に思いますが、ジュ
リアンの孤独を、それを乗り越えようという気持ちを、私はど こまでお客様に伝えられているのでしょうか?私の後を継ぐ者 はまだいないのかーーーー?台本作家は、ジュリアンを「とて
も偉大な一人の素晴らしい聖人だった」とは感じて欲しくない のです。「ジュリアンは貴方のそばにいるのです」、と歌いあ げたかったのです。だんだんこのオペラを深く理解してきた皆
さん、どうだったでしょう?
ヴァリニャーノには立派な声と体の大きさもあって、岩永一也 。なんと本番が誕生日でした。オメデトウ!さて、本人の軽々 とした性格とは無関係なほどの役ですし、ヴァリニャーノを大
きな存在感で演じるのは本当に至難の業でしょう。しかし、ま ずまずの出来でした。オの母音の処理など、発声を安定させる のはこれからゆっくりしっかりやってゆきましょう。「軽さも
僕の人格」と言い切る言葉に、最近は説得力を感じるようにな りました(笑い)。本人には、芯はまだ要らない?
ベルナルドの岩永朋子。オペラ「ザビエル」の時の気迫と発声
を取り戻すよう、少し叱咤激励しておきましたが、本番では流
石に少し気持ちが入ってきていましたね。これからも日々精進
、精進、ですね。誰もがそうですが、退歩するのは簡単、成長
するのはーーーーですね。
おんなの坂田直子。このオペラでは一番の古株かも知れません ね。声も伸びていたし、演技も頑張っていました。内容をかな り知り抜いているので、これからは後輩をさらに心優しく導い
てくれることを願っています。
ザビエルは、僕が兼ねました。兼ねることはお客様にどう映っ ていたでしょう?東京公演でも兼ねますが、では東京でどうす るか、お楽しみに。
大名の浦上寿。高いシの音まで高音がしっかり出るので、それ
は貴重だと思います。後は、正確に歌えるよう、何十回、何百
回と練習、練習ですね。充分消化して必ず出来るまで!だから
何千回練習してもいいですよ。
町の上の亀田増美。声が伸びてきたのがとても嬉しいです。演 技もかなり工夫して勉強したのを感じます。チェンジの所も、 かなり克服してきたので、東京公演での町の上、大いに期待し
ています。
忍室は廣田修が兼ねました。かなり説得力を感じるようになり ました。終演後の打上で皆に話したとおり、台詞や歌はその時 舞台で自分の中から湧き出てくるようになるまで、消化しきる
ことですね。今回も、舞台のあらゆる事を皆に指示しながらの 出演でしたが、この大役がかなり自分のものになってきている のを感じました。本当にご苦労さまでした。若者達、彼をもっ
と見習ってはどうですか?ちょっと誉めすぎかな?
ヤジローには急遽、鹿児島からの兼元俊一。鹿児島では仏僧を 演じてもらったのがこのオペラデビューでしたが、ヤジローに 突如チャレンジされ大変だったと思います。しかし、よく頑張
ってあそこまで御出来になりました。誠実で研究熱心なお人柄 が活かされるよう、こちらもうまくアドバイス出来るよう、こ れからも心がけたいと思います。
仏僧には上五島の水前寺清子こと森絹代さん。上五島の公演で も仏僧を演じてもらいましたが、今回は照明のお手伝いのほか 、本番直前の出入りの変更の問題などをさらりと乗り越え、前
回以上に説得力のある仏僧を演じてくださいました。気合いと 集中力、お見事です。
秀吉には佐世保から永江義一。オペラプラザ長崎の元代表で、 冒頭に記したように忘れられた少年については大ベテランです 。秀吉を台詞でやることについては今までも何度かチャレンジ
し、それなりにいい結果を出してきましたが、永江もさすがに つぼを心得て伴奏とマッチした語り口を披露してくれました。 これからもまた大活躍してください。
上五島からの水前寺清子さんこと森絹代さん。照明の手伝いま でさせてしまいましたし、出るところも急に変更したりしたの に、動揺も見せずさらりと応じてくれたのもサスガでした。ジ
ュリアンを説得する大事なシーンも、気力と集中力が今回更に 光っていました。
マリアには田毎夏穂。悪戯っぽい性格は、将来の役者として見 えてくるようでしたが、その自由な性格をそのまま大きく伸ば してあげたい気持ちでいっぱいです。
村川美咲にはユダにチャレンジしてもらいました。非常に大変 な役どころですが、アドバイスを良く理解し、精一杯頑張って くれたのを感じます。
山下康子も、通訳や役人に告げ口する役で楽しく頑張っていま したね。
オペラプラザ愛媛からは今回は事務局長の秦美智世に、ソプラ
ノの助っ人で来てもらいました。子連れの大変な長旅だったと
思いますが、みんなとも親しく共演できて良かったですね。
各地のオペラプラザの皆さん、他にも仲間が頑張っていること を忘れず、これからもどんどん共演しましょう!
その他、オペラプラザ長崎の川口優子も淀君など、随所で優し い存在感を見せていましたし、山下恵美も、皆の中で切磋琢磨しながら 成長してきてくれているのをはっきり感じます。
伴奏では、何と言っても野崎真琴のエレクトーン。基本的に僕 の音楽を良く掴んでいるので、少々のミスがあっても安心して 任せることが出来たのは、やはり大きかったです。懐かしい小
瀬良神父様との再会もお互いに嬉しかったことでしょう。
松尾さんも、練習ピアノで頑張ってくれたそうですが、長崎か ら今度福岡に転勤になるとか。オペラプラザ福岡の練習には是 非参加して下さい。
また、オペラプラザ福岡に転じた谷かおりは、野崎と秦の子供 の世話を良くしてくれた上、受付も友人を呼んでやってくれて 大助かりでした。
それから先ほど触れた小瀬良神父ですが、彼は10年前の平戸 公演を末永女史とともに大成功に導いたご本人ですし、今回も 彼のお薦めもあって実現したのです。今回の公演は更に分かり
やすくなって感動を新たにしました、とのお言葉。来年の11 月には完全に満席にして公演します、とみんなの前で語ってい ただいたことは、みんなにとっても大きな励みとなったことで
しょう。よろしくお願いします。
さて、終演後の私の挨拶で皆さんも感じるところがあったかも 知れませんが、長崎ではマダムバタフライコンクールを長崎県 が音頭を取って開催しています。しかし、長崎が誇るべきもの
は、キリシタン文化ではないか、特に天正少年使節が現代に語 りかけるものこそ、長崎が世界に発信するものではないか、と 強く思います。このことはもう10年以上も前から機会がある
毎に話すのですが、未だに長崎県は動きません。音楽界ではマ ダムバタフライの方が有名な作品である、という単純な理由か らでしょう。忘れられた少年への一般の方々の支持してくださ
る声は、長崎県の既存の音楽界を大事にする文化行政には、相 変わらずなかなか届かないのでしょう。少年使節を顕彰するこ とがどんなに広がりのある大切なことか、西洋との窓口であっ
た長崎県にとってもどんなに有意義なことか、と思うのですが ーーーーーー。
今回の公演に続く、来年の東京公演はじめ日本各地やドイツで の公演に全力をかけたいと願っています。
スタッフ達の更なる苦労が目に見えてきますがーーー。
ここからは余録――――。
★最後は人柄、であることについて。
人間に取って一番幸せなことは、人を幸せに出来ることだと、
感じてきましたが、社会生活だけではなく舞台でもそうなので
しょうね。また、同じ事をしても同じ事を言っても、人によっ
て不快に感じたり快く感じたりするのは何故でしょう?
一旦、その人を愛すると、痘痕もえくぼ、になりますし、憎み 出すと、坊主憎けれりゃ袈裟まで憎し、ともなります。
舞台に立つ人間は、実るほど頭をたれる稲穂かな、との古人の 戒めを忘れず、自分には徹底的に厳しい目で鍛え上げ、人には 限りなく優しく導く、こうありたいものです。神様ではない人
間には所詮完璧な芸術を作れる筈もなく、最高の芸術を作り続 けられるよう精一杯の努力を積み重ねるだけですね。
でも、そんな努力を続けられる人間って素敵ですね。
しかし、努力を続けるって恐らく大変な精神力を要求され、現 代人には大きな負担を感じることかも知れません。現代は結果 ばかりが強調され、個人の精一杯の努力が見えづらくなってき
ているのは寂しいことです。
僕は、その見えないところ、見え辛くなってきているところ、 大切なはずなのに忘れ去られていっているところ、そんなとこ ろに光をあててゆくのが自分の使命ではないかと感じ続けてき
ました。多くの人々が目を向けるところは、他の人たちに任せ て置けばよいのですから。短絡的な結果より、一生の単位で考 えませんか?
★★近年、マスコミなどの大宣伝で現代人の目先で卑近な利欲 をチラつかせるため、若者中心に現代人はそれに振り回されて 、結局は不安になるだけで疲れ果て、結果的に大志が抱けなく
なって来ていることについて考えます。
スターになって有名にならなきゃ、お金持ちにならなくては、 自分の思うままに人々を動かせる権力者になりたい、などすべ て自分が不幸になる原因になっていることにお気づきですか?
偉い人が持つ名誉でさえ、自分を束縛するものであること、そ れに偉い人は気付いているでしょうか?その名誉によって、関 係者に不要な嫉妬心を起こさせ、自分の更なる可能性を閉じ込
めてしまってることに、思いを馳せる人は?
実は、お金や財産、権力や名誉、それらすべて重荷になるだけ であること。まだ気付かないにしろ、理性がしかりしている人 なら、やがては気付くでしょう。
現代の皆さま、それらから解放されてゆったりと生きませんか ?
歌はいいですよ。一生の荷物にならない大きな財産です。最後 は人格ですがーーー。
★★★ところで、私自身のことを相当なワンマンだと思ってい らっしゃる方が多いことかと思います。実は、本当にそうなの です。相当な我儘、だと自認します。ただし、芸術を作るとき
は、です。
一般論で説明します。この作品をどう見せたいかという演出家 の意向に沿って、舞台美術や衣装、照明、配役などが決められ 、みんなは演出家の狙いを正確に把握して、その意向に沿うよ
う練習に励むのです。大きな舞台では演出家の意向を、振り付 け師や、演技指導者が補佐してゆくのが普通のやり方でしょう ね。また、たとえ自分の能力や練習時間など、条件の問題があ
って理解が難しくても、参加する限りは演出家の指示に従って 演じきることです。個人は自分の価値観で演ずるのではなく、 演出家の意向に沿って努力しないと、バラバラな舞台になるの
は当然でしょう。その個人を活かせるかは演出家の力量です。
当会の場合、私が何もかも兼ねることが多いので、こんな形が
当然かのように思われているかも知れませんが、それだから、
私が「怖い演出家」にならなくてもまとまりやすいこともある
でしょうね。ワンマン、もうしばらくの間、お許し下さい。
★★★★また、余計なことかも知れませんが、「下からは上の 様子が分からない」ことについて。
地を這う蟻たちに人間の心が分かるでしょうか?
幼い子どもには、成長した大人の能力関係を理解できるでしょ
うか?
声を出すことしか学んで来なかった歌手には、特異な演出家の
意図をすぐには理解できないこともあるのは仕方ないことでは
ないでしょうか?
専門バカの芸術界は、仮に政府などの思惑通りに自分たちが利
用されているに過ぎなくても、疑念を呈するでしょうか?
人間は神様の心を分かっているつもりでいても、本当に分かる 筈がないのでは?
だから皆さん、何も分からない私たちはひたすら謙虚になって 、ただ生かしていただくことに感謝しながら、元気を各地の皆 さんに贈ってゆきましょう。私たちのオペラで。日本にも厳しい冬が近づいてきたのでしょうか、これを書いて
いる波佐見町の中尾は長崎の軽井沢と呼ぶこともある、亜寒帯 のようなところです。しかし、此処でスタッフや心ある仲間に よってオペラの大道具や衣装が管理され手入れされていること
、そのお陰で各地ではオペラが身近に公演できるようになって いること、お分かりでしょうか?
私たちは、身近なことばかりや、目の前に迫っていることなど にしか目が向かないものですが、それでも余裕を持つと広く世 界に目を向けることが出来、より多くの人々に優しくなれ、人
間はやはり素敵なものだ、と思えるようになります。これが私 の実感です。
皆さん、どうぞお元気で!
次は、まず福岡で「フィガロの結婚」が待っています。
そして、いよいよ来年早々に「忘れられた少年」が東京公演。
各地でも続演―――。
公演を思いきり楽しめるよう、みんなで一緒に練習に励みまし
ょう!
各地の皆さんも自分たちの所だけで精一杯でしょうが、せめて
オペラプラザグループの事だけはお忘れなくーーー。
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