エドワード親書 2018年8月号

日本―ポーランド国交樹立100周年記念巡演プレイベント
オペラ「忘れられた少年」公演を終え

いろいろなハプニング続きの中、皆さま、頑張ってくれてありがとうございました。
改めて皆さんの健闘を讃えたいと思います。

まず初めに、私の体について重ねてお詫びを申し上げます。
8月8日には軽く調べてもらって何ともなければ1時間で帰してもらえると聞いていたので、そうなるものと勝手に思い込もうとしていたのですね。後で医者の息子から本番の前に手術を受けるなんて、と呆れられましたが、本人は手術になるとは全く思っていなかったのです。おまけに一泊の筈が二泊にされて―――。最初の手術で終われば9日には退院できたし体も虚弱化しなくて済んでいたのに10日まで監禁されるとは。
言い訳と愚痴はこれぐらいにして、公演そのものを振り返ります。

終演後もロビーで多くの方々から、今までで最高の公演でした、等の賛辞を頂きました。
やはり回数を重ねてくると、演出はほとんど変わらなくても、参加者の皆様の深い共感がお客様にも伝わってゆくのでしょうか、面白いものですね。(まだ共感が足りない人もいるでしょうから、出演者全員が深い共感を共にして舞台が出来たら、いったいどんなことになるのでしょう?)

今回の企画は、100周年巡演のプレイベントとして位置付けてやることにしました。お盆にかかるので心配はしていましたが、お客様もたくさん来てくださりホッとしています。

全員集合

まず舞台全体について。
オリンピックセンターの会場としての条件をフルに使わせていただき、何とか本公演並みの舞台を考えました。照明や舞台設営など会場側の大変なご協力はいつもながら頭が下がります。映像を作ってくれた吉井もよく頑張ってくれました、投影してくれた横山パパにも感謝です。映像については打ち合わせ不足もありましたが、お客様にも分かりやすくてよかったようです。この次は投影者に分かりやすくバトンタッチできるよう、もう少し細かいところまで指示したものを吉井に作り直してもらえたらと願っています。
(しかし、今回のビデオは残っていないのです、撮影のスイッチが押されなかったまま舞台が始まってしまいました。申し訳ありません。)
舞台監督にいつの間にか就任していた遊達人。相変わらずテキパキと指示し見事でした。恥ずかしくなるくらいにね。本来の舞台監督の廣田修も助かったのではないですか?
このオペラは着替えも多く、転換も多く、その点は大変なのですが、皆が上手く動いてくれてよかったです。

出演者を一人ずつ振り返りましょう。

指揮の黒川和伸。
来年の12月にこのオペラを越谷の合唱団で演奏会形式で取り組むと理事長さんから連絡があった時、黒川さんのことを聞きました。合唱界では本当に大活躍の方で、オペラもよく知っていらっしゃるとのこと、お電話で直接お話しして即決しました。ただこんなにお忙しい方とは知らず、練習にもう少し早くおいでいただけたらと思っていましたが、窓口となった田村から「本番前の3日間だけしか出られないので、他の方に代わって頂いた方がいいのでは――」と黒川さんから申し出があったことを聞いたときには、「そうだったのか――」とやや複雑な気持ちになりました。しかし、僕に伝える時間と余裕がなかったのでしょうね。とにかく黒川さんの指揮は的確でさすがだと思って見ていました。来年の12月には、「もっと深く歌い上げるような感じで」という私のアドバイスを具現化してくれるだろうと期待しています。本当によく振ってくださいました。頂いたみんなへのアドバイスも意外で、経験者たちも喜んでいました。

ときゆく者の石多加代子。
やはり心配させましたね。しかし、さすがに深い共感に根付いた台詞は見事なものでした。最後のあの言葉に感動したお客様の声もいくつか届いています。最後の歌を誰かに保険をかけておきたいからと前日に吉井と秦に言っておきましたが、一時間前に正式に秦さんにやるよう伝えました。石多加代子がオクターブ下で歌い、秦が本来の高さでユニゾンになって歌うという前代未聞のやり方でした。皆さんはどう聞こえましたか?おそらく初めてのお客様にはそう違和感がなかったのではないでしょうか? とにかく、長崎の九州本部で坂田とともに衣装を洗い直して干しなおし、大道具を積み込んで東京まで車で走って来て、終わったらまたその大変な作業をするのですから、皆さん想像できますか?その上で私たちは歌い演じられるのです―――。

使節役では、まずマンショの金努。
明るく謙虚な人柄は今回も皆から好感を持たれていましたね。私のアドバイスも努力してくれてたのを感じましたよ。いろいろ大変なこともあると思いますが、当会の趣旨を深く理解しますます成長してきてくれるのを楽しみにしています。

千々石ミゲルに鹿島千尋。
初参加ですが、おそらくは大変なプレッシャーの中、よく頑張ってくれました。練習を重ねるたびによくなってきていたので期待どおりでした。また一緒にやりましょう。

原マルチノは今回も我らが枝ちゃん。
相変わらずの美声は、それだけでも聞く者の心を慰めてくれるようですが、それだけではなく真摯な演技力も、今回も共演していて嬉しかったです。娘さんとの共演も面白かったですね。

少年使節役ではマルチノの吉井美幸。
雑用から何から今回も大活躍してくれました。練習中から演技に気合も入り、他の皆のやる気を喚起してくれたかな?本番でも声も伸びて来たのでホッとしています。ビデオのスイッチを入れる指示が上手く伝わってなかったのは残念だね。おそらく皆さんもがっかり、かな?まあ、こういうこともあるのでしょう。幻の名公演、としておきましょうか?

少年ミゲルには名越桃子が。
もう20年の付き合いになるかな。二人の子にも恵まれ立派な?お母さんなのに、今もその可愛らしさで―――。後は言いますまい。歌も演技もよかったよ、モチロン!

少年マンショには小学生の時から見て来た仲濱美海。
いろいろ心配をかけてくれたのはともかく、大変なプレッシャーの中、音程も定まって来たし、よく頑張って歌い切りました。これから、もっともっと成長してくれることを願っています。

少年ジュリアンには仲井隆浩。
彼には低すぎる声域の役でしたが、体を少しほぐせたのか、音が上ずらなくなって声も伸びてきましたね。何しろ、子どもにもあれだけ好かれる性格の上、まっすぐに演技に向かう姿勢はいつも気持ちよく見ています。今回は他のこともあって練習で集中しきれないときもありましたが、すべて乗り越えて頑張ってくれました。これからも大きく成長してください。

大名には、ベテランの平良栄一。
お体のこともあったのですが、特にお願いしてご出演頂きました。誠実で謙虚なお人柄にはいつも頭が下がる思いです。あの難しい歌も見事に歌い演じて頂き、とても嬉しかったです。これからもどうぞご一緒に歌ってください。

忍室と秀吉には我らが蔵ちゃん。
何を演じてもらっても面白い蔵ちゃんですが、忍室のイメージが新しくなりそうな演技でしたね。面白かったです。
そして、圧巻は秀吉。この大役は誰が取り組んでも至難の役なのですが、蔵ちゃんらしく見事に歌い演じてくれました。

余談ですが、
このオペラは誰もが歌えそうな歌から、ソリストの歌っている至難の歌までいろいろあります。実はこのオペラの台本を書きながら構想を練っていた時は、物語が物語ですから、古今東西のあらゆる音楽技法を使いこなせる作曲家を探していたのです。そして白羽の矢を当てた故柴田南雄氏に作曲お願いした時、仰ったことです。「エドワードさん、何でも言ってください。要求されるどんな曲でも作って見せます、それがプロの作曲家です。」如何です、こんなことを生意気盛りだった40歳の僕に仰られたのですよ。素敵ですね。それで私は厚かましく、ココはこんな曲で、ココはイタリアの古い作曲様式を取り入れて、ココでは素朴な日本の民謡で、ココは激しい現代音楽で、等とお願いして作り上げて頂いたのです。

さて、戻ります。
ヴァリニャーノには大地が。
発声については何度かアドバイスしましたが、これからですね。声や容姿に恵まれているので、後は大きな心を育てることかな?

ザビエルの遊達人。
彼も同様ですが、演技に気合はしっかり入っていたし、演出助手としても舞台監督としても、見事にやってくれました。ザビエルになり切るには、もう少し人生経験が必要な気もしますが、これからを期待しています。

ベルナルドには秦美智世が。
概ね、よく歌い演じていましたね。その上、今回は特別に、ときゆく者の最後のあのアリアを手伝いました。大変だったことでしょう―――。頑張ってくれて有難う!

おんなの辻村久美子。
ゲネまでは声も伸びて来てたので何とかと思っていましたが、本番ではやや疲れが出てしまったのかな?やはり体も心も、今まで以上に鍛え続けることですね。チケット管理の雑務などはご苦労様でした。

町の上には田村多佳子。
本番ではさすがに声も伸びて来て安心して聞いていました。演技もまあまあ頑張ってくれていましたね。そして何より、今回の事務作業をほとんど一人でやり抜いたことは脱帽です。
まあ予め相談してほしかったこともありますが、忙しい僕をあまり煩わせないよう配慮の上だったのかな?これからは、皆と上手くチームワークを組んでやっていけたらいいね。

仏僧には幸神人。
このいい役、だんだん重要度の大きさを噛み締めて来てくれたようでしたね。体を動かしてしまう癖もなくなって来て、これからも更に精進してください。役者に完全はありません。私たちも常に、初心者に帰って零から役に立ち向かいましょうね。

ヤジローには愛媛から越智大之。
この役も思い切って越智君にチャレンジしてもらいました。その場でいつも一生懸命取り組んでいるのは伝わってきます。これからは自分を客観的に見つめる目を大切にしながら、更なる精進してくれることを期待しています。

フィナーレ

合唱参加の皆さん。

坂田直子はいつもながらの衣装担当を兼ね、お疲れさまでした。いつもありがとう。

佐々木利奈も少し大人になってきたかな?いろんな人に優しくなれる利奈が素敵だな。

枝川慧子は突然通訳に抜擢。そう言えば打ち上げで親子の会話の中、面白いことを言っていました。「普通のオペラは誰それさんが何の役を歌うのを聞きに、等と思うけど、ここではみんなで作り上げるのがいいし、オペラそのものにメッセージを感じる.」とか言って皆も感心していました。これからどう成長してくれるか楽しみですね。

山田彩子は佐倉から練習にご苦労様でした。これから歌唱力を付けて頑張ってください。

福岡からは事務局長の原田恭子が淀君役で参加。またソプラノの力になってくれました。

長島優花は、どこか面白いキャラクターでしたね。演技も好きそうなので楽しみです。

いい声を持ってる菅原真美子のおばあさん役も面白かったですね。ちょっと若すぎたかな?

長崎から廣田修がフィリップ二世と舞台監督を兼ねてきてもらいました、テノールを引っ張ってくれてありがとうございます。

立石勇気は入間で手伝ってもらっているのですが、歌では初参加。発声を磨いて頑張りましょう。

キッズはもういいでしょう。
みんなが出てくれたから、ユニバーサルデザインオペラを目指す当会らしい公演が出来るのです。一人一人がこれからどう成長してくるのか見守ってるから頑張ってね。

オケの皆さんも有難うございました。黒川さんとの合わせが少なくて心配だったでしょうが、細かいミスのことは今後の課題として、よく頑張ってくれました。これから、東京オペラ協会管弦楽団を立て直そうと思っています。

エレクトーンで一人頑張ってくれた野崎真琴は、いるだけで安心できるところがあるので助かります。名越や吉井と同じくまだ30くらいの若さだと思いますが、これからも集中力が途切れないよう体力を温存してステージに臨んでください。

繰り返しますが、私が緊急手術でご心配をおかけしたことは、ただお詫びするしかありません。今後の大きな課題が目の前に迫ってきた感じですね。
私の理想のジュリアン像を言葉にすると、下のFから上のFまでたっぷり歌え、潜伏しながらの布教に相応しい細身の体型をし、不屈の精神力で立ち向かっていける人です。
そんな人はなかなかいませんよ、という声も返って来そうですが、皆さんの周りにはきっといるはずです。どうぞご協力ください。
今回の大腸の手術の方より、激しい運動になった時の心臓の鼓動が問題なのです。


僕に残された時間がどれだけあるか分かりません。東京オペラ協会が発展するか、一代で終わるか、皆さんのお気持ち一つです。どちらでもいいのですが、世の中の様子を見つめるたびに、老いてきた自分は何をしたらいいのかと問い直す今日この頃です。

いきなりですが、世の中ラッキーを求めて振り回されていませんか?
幸せは、追い求めても掴んだと思ったとたんに逃げてゆきますが、誠実に生きていれば後からそっと付いてくるものです。これでいいではないですか?

マスコミに振り回されることを止めにして、身の回りの小さな優しいことに心を傾けていましょう。マスコミは誰かを英雄や天才に仕立て上げて大宣伝し、それに群がる人力お金を吸い上げて太っているだけなのですよ。祭り上げられた人は、初めはいい気でいるかも知れませんが、自分が一人の弱い存在でしかないことに気づき、虚しくなったり心に異常をきたしてしまってゆくのではないかと、と気の毒にもなります。 地球に生かしていただいている私たちですが、地球への、つまり大自然への感謝の心なくして、威張っていたら愚かですよね?

愚かで弱い私たち、でも、どこか憎めない可愛い人間、そんなのでよくありませんか?
伊庭貞剛のセリフです。「いたずらに金や名誉や権力を追い求めず、世の幸せをそっと願いながら市井に忠実に生きること、これが最高の生き方ではないか。」

この頃、年の精か愚痴っぽくなってるでしょうか?笑ってやってください。

猛暑に台風、皆さん大丈夫ですか?
入院生活などで体力が弱り切っていましたが、長崎で少し休ませてもらっていると、僕はもうしばらくは頑張れそうな気になってきました。
皆さん、もうしばらくオペラで一緒に遊びましょう。遊ばせていただきましょう。


2018年8月16日

 石多エドワード