エドワード親書 2022年1月号

全国縦断コンサート 〜こんなに空が青い〜

各方面からの様々な心配を背にしながらも、遂にこのツアーをやり抜きました。
AFFの支援内定がなかなか出ないで見切り発車的なところがあったのですが、10月になってやっと期待通り内定が来てホッとしました。
実は、9月頃この助成制度を知った時12月までの事業に限るとあったので、オペラは無理だがそれまでにコンサートなら出来ると思い、あちこちの関係者に担当してもらえるか電話で聞いてみました。
名古屋の一般財団法人夢ノ社の白浜さん、滋賀のスペシャルオリンピックスの檜山さん、松江の人間自然科学研究所の小松さん、広島大学の枝ちゃんや、フェリス音大の蔵ちゃんなど、即座に引き受けてくださる等、各地で思いの外どんどん乗って来てくださったので、9回もの縦断コンサートになってしまった訳です。
その為に予想される膨大な作業を心配しながらも、スタッフとして全体を支えてくださった大島さんや石多加代子には、またまた大変な労力をかけてしまった。
お詫びと感謝の気持ちは言葉にしたくないほどです。
プロとして参加してもらった人は、今回はいつもより恵まれた条件で喜んでくれたかな?
お客様は各公演すべてで喜んでくださったと思いますが、その要因はエドワードの作品云々もあるけど、やはり演奏者の純粋な気迫によるものが大きかったと思います。みんなそれぞれ頑張ってくれました。
各回を少し振り返ってみましょう。


名古屋公演:
巡演コンサートの初回でもあり心地よい緊張感に包まれながらも、響きのいい会場でしたし、お客様の心からの拍手にみんな張り切って歌いあげてくれました。
名古屋二期会でも主役を演じ大活躍している上ノ坊航也君が今回のコンサートでも若い実力を発揮してくれましたし、東京オペラ協会の新人歌手として採用した谷野のどかもよく頑張りました。
そう言えば旧知のカトリック名古屋司教区の松浦悟郎司教もおいで下さり、ワンガラナイ等ご一緒に遊んでくださったことも微笑ましかったです。
それから、ハープを弾き歌いした名越桃子は、コンサート会場の中で優しい歌声が響き、お客様も満足だったでしょう。
また、大葉ナナコさんのさり気ないインタビューは、私のオペラづくりについての様々な話を分かりやすく聞き出して下さり、お客様にもしっかり届いたのではないでしょうか。
何より初回でもあるし、大島さんが手伝いに来てくれたことも大いに助かりました。コンサートを受け入れてくださった白浜さんも、いろんな点で安心したと思います。
とにかく、来年度のオペラ「忘れられた少年」名古屋公演への布石が出来たかと思います。


栗東公演:
滋賀県栗東市のサキラホールも響きのいい会場で、歌手たちもみんな気持ちよく歌っていました。
スペシャルオリンピックス日本・滋賀をはじめとする社会福祉協議会関係の皆さんが、司会の大島さんと親しくしていた関係もあり、お客様を気楽な楽しい雰囲気に導いてくださいました。
英語で歌われる「二匹の子猫」では、司会の大島さんが子猫役に突然引っ張り出され(誰の仕業か?)、それが却って暖かい会場の空気に?がったことは言うまでもありません。
石多加代子の子育て応援歌はもちろん、名越桃子のハープ弾き歌いも好評でしたし、私たちが目指しているユニバーサルデザインによる音楽会がまさに実現している思いでした。
今回のコンサートでは、歌劇「天空の町」の中の曲を中心に取り上げましたので、再び機運を盛り上げて滋賀での再演を願うばかりです。


松江公演:
島根県松江にある小松電器産業株式会社は、当会を応援してくださってきた社長の小松さんが一般財団法人人間自然科学研究所を25年前から立ち上げ、太陽ホールという大きなサロンで様々なイベントを手掛けていらっしゃったのですが、今回は初めてのオペラ。大きな声量に驚かれた方々が多かったと思いますが、皆さん気軽に楽しまれていました。やはりオペラ歌手の歌は大きな魅力でもあるのでしょう。
日本で唯一のツィンバロン奏者である斎藤浩さんの演奏も、皆さん興味深く聞いていらっしゃいましたし、石多加代子との共演も聞きごたえたっぷりの演奏でした。
ここではエレクトーン伴奏だったので、島筒歌曲が入れられなかったことは少し残念でした。
司会の浜菜みやこさんはお客様へのアプローチをプロらしく見事にしていました。
松江では、日中合作歌劇「蓬莱の国―始皇帝と徐福」をアレンジし直して近々公演する予定なので、この歌劇について私から説明しましたし、普段オペラに馴染みの少ない方たちに興味を持っていただけ、将来の松江公演の観客動員に繋げられることでしょう。


福岡公演:
福岡では、オペラプラザ福岡が主管になって公演準備しましたが、司会の藤沢美保さんと桑原千恵子さんのどこかふわっとした雰囲気が、プロっぽくなくて逆に微笑ましい空気を出して進行したことが面白かったです。

今回は、尺八奏者の野村公昭さんが急病になったため、急遽広島からシタ―奏者の白井朝香を呼んで石多加代子と共演しましたが、以前も共演したことがあるのでさっと見事に合わせて演奏してくれました。
また子育て応援歌として石多加代子が歌う島筒英雄歌曲では、涙を浮かべるお客様も多かったのが印象的でした。
オペラと一言で言っても、当会が目指す日本の新しいオペラは、ユニバーサルデザインによる誰にも楽しめるものであることを福岡市民にも知って頂けたので、歌劇「天空の町」福岡公演の再演に役立つことでしょう。
研究熱心な枝ちゃんご夫妻が、わざわざ広島から来てくださったことも嬉しかったです。


新居浜公演:
あかがねミュージアムは、2012年歌劇「天空の町」が生まれた新居浜市にありますが、2015年以来新居浜で公演していませんでしたので、この機会に再演の空気を膨らませたいと企画したのですが、やってよかったと思います。
また、このコンサートの中で、日本一の尺八奏者となった星川千代洋氏や、別子山に伝わる古典芸能であるせっとう節の皆さまをお招きして共演できたことが何よりでした。
また歌劇「天空の町」を熟知する藤田亜矢子さんと灘ゆかりさんが司会を楽しくしてくれたことも今回の暖かい音楽会になった成功の一因でした。
この歌劇の来年新居浜での10周年記念公演に向かって、機運を盛り上げていける実感を持ちました。
あの別子山での合宿など、楽しい思い出が蘇ってきました。
ご来場のお客さまも「天空の町」のいろんな曲を再び歌いたくなったそうです。


長崎公演:
平戸を題材にした新作歌劇「根獅子浜の不知火―おろくにんさま」の来年3月6日の初演を前に、佐世保市江迎地区文化会館インフィニタスホールでの公演予定だったのですが、12月12日はこの新作歌劇の依頼者である小瀬良神父の誕生日でもあり、会場を赴任先である長崎市のカトリック稲佐教会に変更して公演しました。
教会のお御堂での公演なので、多少の制約はありましたが教会側が精いっぱいの協力をしてくださり、とても暖かい公演になりました。
サプライズソングとして石多エドワード作曲のバースデーソングを歌ったのもよかったことでしょう。
来年3月平戸での初演の観客動員にも繋がることと思います。


新宿公演:
音楽の友や音楽現代にも広告を出すなど今回は広報宣伝にも力を入れましたが、プロアマ問わず音楽ファンの方々に東京オペラ協会のオリジナル曲や、当会の目指す音楽活動を改めて広報する機会にしたいと願って、新宿文化センターの小ホールを会場に選びました。東京に眠る若い才能を見つけ、彼らにお客様に自分の歌がどう伝わるかを、実際の演奏の場からで学んでほしいと思いました。結果、課題も残りましたが、谷野のどかや佐々木利奈も頑張り、今後の成長に大きな期待を持つことが出来ました。
名越桃子のハープ弾き歌いが東京でも喜んでいただけました。歌うハーピストと呼んでしまいましたが、彼女の声がハープとも相性がいいのでしょう。
しかし特に面白かったのが、蔵ちゃんの日本歌曲に一人息子の健太郎が急遽ピアノ伴奏したことです。関係者は興味深くこの暖かい親子演奏を楽しみましたね。
ただ、来年6月25日中野ゼロで公演する「魔法の笛と鈴」の前宣伝をするつもりでしたが、殆ど忘れていましたね、反省。


波佐見公演:
長崎県の波佐見町は、オペラ「忘れられた少年」の主人公の一人である原マルチノの生誕地でもあり、かつ初演の地でもあります。それゆえ、このオペラはこの地で何度も公演していただいておりますが、このオペラを映画化するにあたってご相談ご協力を頂いている肝心の町ですので、教育長も鑑賞され賛辞を送ってくださったことも嬉しく思っています。
実は波佐見町総合文化会館(ウエイブホール)はキャパが600人のホールなのですが、響きがあまりよくないとのことで心配をしておりました。
普段はマイクを使わない演奏などないそうですが、しかし、ホールに詳しい関係者が「よく響いていました」と驚きにも似た感想を寄せてくれていました。出演者の歌唱力アップのお陰でしょう。
石多加代子の子育て応援歌に勇気づけられた若い妊婦さんが涙を浮かべてお礼にいらっしゃいました。歌の力の大きさを思い直しました。
盲目の作曲家である島筒英夫さんのあれらの曲は、少子化に悩む現代に大きな光となるかと思いますので、どんどん紹介してもらえたらと願っています。


広島公演:
最終となる広島大学サタケホールでのコンサートでしたが、期待以上に出来たので嬉しい限りです。

まず、枝ちゃんの事前指導がよかったこともあり、広大オペラのみんながエドワードの歌にすぐに溶け込み、演技も何の違和感なく見事に楽しんで歌っていました。またフロイデ東広島の方々も短い練習期間で覚えられるかという心配を余所にして、時には楽譜を外して楽しく歌ったり演技もしていらっしゃり微笑ましかったですね。
広島大学准教授で有望な新人歌手である大野内愛さんも、歌劇「天空の町」から森の精のアリアを見事に歌い切ってくれました。
石多加代子の島筒歌曲では、枝ちゃんのアドバイス通り加代子の子育て経験のコメントをしっかり入れましたが、心打たれた方々が沢山いらっしゃったそうです。
そう言えば、枝ちゃんの奥様である泰子さんの伴奏もさすがで、初めての曲でもその曲の本質を掴みながら、しかも大変な数を一人で伴奏し支え切ってくれました。
このように今回をきっかけに広島の出演者たちが東京オペラ協会の歌手とも親しく共演したことで、出演者のみんなが誰かさんのファンとなり、次の広島大学での「魔笛」公演(まだ内緒らしい)では共演する可能性も高まりました。
そうだ、枝ちゃんは私を尊敬する師としてみんなに紹介していましたが、その割にユニバーサルデザインは口だけだなどと、師への批判や注文も多くなってきたのがまた面白かったです。
弟子は師を超えなくてはなりませんからね。枝ちゃん、本当にありがとう!


今回の親書も思いつくまま書いてみましたが、オペラではなくコンサートの巡回だったことが少しはいつもより楽だったかな?
この縦断コンサートは私の作曲した曲を中心に、自分で語りながら歌うというリサイタルのようなものだったかも知れませんが、当会や私の姿勢がお客様にどう伝わるかが一番の関心事でした。
どうだったのでしょう?
舞台から感じるお客様の気持ちと、終演後に伝わってくる感想は嬉しくありがたいものばかりでしたが、中には話し言葉が聞き取りづらかった方もいらっしゃったようです。ある程度以上の会場だと、歌はともかく、生声で話すのは難しいですね。現代人の耳がテレビなどの電気的な音声などに慣らされてきたこともあるのでしょうか?
思い返せば、各コンサートでは司会者との十分な打ち合わせもなく、当会の姿勢などについて殆ど思いつくまま話しました。それでちょっとずつ話す内容も変わって、例によって司会者を困らせたかもしれません。いつもながらごめんなさい。一切が無、と仰っていた福岡正信さんのことを引き合いに出し、すべては空と言って自分のいい加減さを誤魔化していたのでしょうか?
自分の歌については、どこまで出来たのかは自分ではよく分かりませんが、とにかく私に後はない、私の難病などどこ吹く風、と何とか歌い切りました。


出演者一人一人へのコメントはほとんど書きませんでしたが、各地の出演者のそれぞれ頑張りをじっと見守らせてもらっていました。エドワードの姿勢に共鳴してくれる人も、少し冷ややかに見てる人も、やがて分かってくるだろう人も、みんな可愛く思っています。
そしてこんな我儘勝手な私を育てってくださっているみんなに感謝!


   2022年1月3日

 石多エドワード